TOKINOTANE

 

TOKINOHAでは、そのほとんどの器を職人が電動ロクロやタタラという技術を用いて制作しており、制作には職人としての一定以上のスキルが必要になります。

陶芸における職人の技術を習熟させる方法は、基本的に数をこなすこと以外の道はなく、それは今も昔も変わりません。徒弟制度の中では、お小遣い程度の賃金だからこそ、雇用主の負担が少ないという前提の上で技術を磨く時間を確保することが可能でした。

ただ、現代においては雇用を取り巻く価値観は大きく変化しており、そもそも徒弟制度はどうなんだ?弟子入りも雇用だろう。ならば最低賃金は確保しなければいけない。という声も聞こえてきます。

ただ、徒弟制度を否とし、日本の労働基準に則って仕事をしてもらうことになると、小さな商いをしている工房では賃金が発生する終業時間中に技術を磨いてもらう時間を確保することが難しくなります。

そのような状況から、陶芸では、日中は成形以外の仕事をこなし、夜に自主的に技術を磨くことが通例となっています。これは工芸以外、例えば美容師の世界などでも同じで、営業時間後の夜に練習をしている姿をよく見かけます。技術を習得するには、基本的にそうして自ら学ぶしかありません。

TOKINOHAでもそれは同じでした。夜に自主的に居残り練習をすることで、少しずつできることを増やし、日中にできる仕事を増やしていきます。このシステムがうまく機能するかどうかは、職人がモチベーションを保てるかどうかにかかってきます。

僕自身は弟子入り時代には壺を作ること以外は許されていませんでしたので、3年間夜の時間に日々壺を作る練習をしていました。その時の経験からも、モチベーションを保つのは非常に難しいのを感じます。今日は少し体調が優れないので、今日は日中に仕事を頑張ったから、今日は夜に友達と飲みに行く予定があるので、などさまざまな理由を作って練習から逃げようとしていました。

ただ、僕の場合は半強制的に練習をすることを強いられていたおかげで毎日逃げたくなる思いを押し殺して毎日ろくろに向かっていました。僕のように心の弱い人間にとっては、そうやって強制的にやらされる、というのは非常にありがたいことでした。嫌味でもなんでもなく本音で心から感謝しています。

ただ、そのやり方は今では通用しません。あくまで自主的にモチベーションを高めることが大切です。ではそのためにどうすればよいか?

前置きが長くなりましたが、TOKINOHAでは職人が自主的に練習することに対してモチベーションを高められるように、TOKINOTANEという制度を考えました。TOKINOTANEの概要はざっと以下の通りです。

1,職人は、仕事時間外に個人事業主として仕事場を借りることができる。(使用代は無料)
2,職人は、TOKINOHAから土を購入し、TOKINOHAの器の素地を作る。
3,作った素地は、TOKINOHAが検品を行い、合格した器はTOKINOHAが外注をしている正規の金額で買い取る。
4,検品で合格しなかったまだ未熟な素地も、半値で買い取る。
5,半値で買い取った器は、TOKINOHAが用意した釉薬を掛け、TOKINOHAのタネたちが作った器として、TOKINOTANEというブランドにし店舗で販売する。
6,職人は、個人事業主として毎月TOKINOHAに素地代を請求する(年末には個人事業主として確定申告を行う。)

この制度には、以下のようなメリットが生まれると考えています。

職人にとって

1,居残り練習が仕事になるので、練習するモチベーションになる。
2,自分が作った器が売れることでモチベーションに繋がる。

お客様にとって

1,TOKINOTANEの器はTOKINOHAの器よりも安価に設定されていて嬉しい。
2,職人が成長する過程を応援できる。

TOKINOHAにとって

1<職人が技術を自主的に磨いてくれ、職人として成長してくれる
2,TOKINOTANEというブランドとして収益が上がる。

上記のように、TOKINOTANEという制度は、職人にとっても、お客様にとっても、そして事業主であるTOKINOHAにとってもメリットがある制度になっていると考えています。

さらに、続けていくうちに、

1,練習中の未熟なものは破棄されることが多かったが、破棄される機会が減り環境に優しい。
2,未熟なものが世に出ることで、成熟したものとの違いを一般の人が認識できるきっかけになる。

という社会的にも意義のある取り組みになっていると気づきました。

このTOKINOTANEはTOKINOHAにフィットする形で作ったシステムですが、これを工芸のさまざまな事業所が自分たちに合わせてカスタムし職人を育成するシステムの一つの形として広がることができれば、工芸の世界は今よりも少し良くなるのではないかと考えています。